前回(第9話:優先順位を見極めて成果を出す)では、やるべきこと・やらないことを明確にし、生産性を高める方法をご紹介しました。
ただ、優先順位を決めても「自分に何を任せれば一番成果が出るのか」が見えないと、現場では手応えが薄くなります。
特に40代以降の主任・管理者は、「自分の強みを軸に現場を動かす」ことが、定着率やキャリアアップにも直結します。
本稿ではドラッカーの理論をベースに、自分の強みを見極め、現場の成果へ転換する実践法を解説します。
強みは成果の源泉。まず「自分の武器」を明確に
ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)で、
「人は弱みではなく強みによって成果をあげる」
と述べています。介護現場は人員も時間も限られます。
自分の強み×重要業務の掛け算に集中することで、短期間で成果と満足度を同時に高められます。
これは部下育成や離職防止にも直結し、リーダー自身のキャリアアップにおいても強力なアピール材料になります。
弱み克服中心はリターンが小さい
弱み改善はゼロをプラスにする作業で、投下時間に対するリターンが限定的になりがちです。
一方、強み伸長はプラスを二乗に変える仕事。
短時間で成果・信頼・評価を得やすく、現場のモメンタム(勢い)を作れます。
私の体験談:弱み矯正をやめたら、評価が変わった
老健で主任をしていた頃、私は「全方位で平均点」を目指して記録・連絡・家族対応を抱え込み、どれも中途半端でした。
思い切って家族・多職種との調整(自分の強み)に軸足を移し、記録はテンプレ化と分担で標準化。
2週間で家族クレームが激減し、医療連携もスムーズに。評価は一気に好転しました。
強みは周囲から見たほうが正確
自分の強みは、自己評価だけでは盲点が出ます。
同僚・上司・他職種のフィードバックを取り入れるほど、再現性のある「実務的な強み」が浮かび上がります。
現場で使える質問テンプレ(1on1・匿名アンケート用)
- 私に任せると早く確実に終わる業務は何ですか?
- 私のサポートで現場が助かった瞬間は?(具体例つきで)
- 私がチームに一番貢献しているのは、どんな場面ですか?
ドラッカー流「フィードバック分析」の3ステップ
ドラッカーが提唱するフィードバック分析は、強みの発見と活用に最短です。
介護現場での実装手順を明確にします。
ステップ1:目標設定(4週間単位)
「家族対応の一次レスポンスを24時間以内」
「転倒報告の情報漏れ0件」
「OJT指導マニュアルを3本作成」
など、測定可能な目標を設定します。
ステップ2:結果の記録(事実ベース)
数値・日時・関係者コメントを簡易ログで残します。
例)「家族連絡:一次レス当日12件/12件。担当から“安心できた”とコメント」
ステップ3:分析・修正(強みと改善点の抽出)
目標と結果の差から、得意なプロセス(例:関係調整・標準化・観察力・教育)を特定。
次の4週間で強み×重要業務に再配分します。
成功事例 ― 強みを軸に現場が変わる
事例1:記録管理が得意な主任(特養)
主任Aさんは記録の正確さとスピードが強み。
入力テンプレを整備し、若手にショートレクチャーを実施したところ、記録漏れが80%減。
看取り期の情報連携がスムーズになり、家族満足度も向上しました。
事例2:コミュニケーション力を家族対応に活用(GH)
リーダーBさんは対話が得意。
苦情対応の一次受けを任され、家族満足度が向上・クレーム半減。
多職種カンファの進行も上手くなり、医療連携のタイムラグが縮小しました。
事例3:改善提案の継続で時間創出(デイ)
主任Cさんは「小さな改善の積み上げ」が得意。
毎月の改善会議に3件提案し、3か月で業務時間10%短縮。
空いた時間をリハ強化に回し、ADLの維持率が改善しました。
強みを活かせば、成果は「自然に」積み上がる
強みの明確化→重要業務への集中→成果の可視化。
この循環が回り始めると、評価・定着・採用のすべてが好転します。
40代以降のリーダーにとっては、転職市場での武器にもなります。
明日からできる実践ステップ(保存版)
- 成功体験を3つ書き出す(誰に・何を・どう貢献したかまで)
- 共通する行動特性(調整・観察・教える・標準化・スピードなど)を抽出
- 周囲に短問アンケ:「私の強みは?」を3人以上に聞く
- 強み×重要業務の再配分(自分は強み集中、弱みは仕組み化・委任)
- 4週間のフィードバック分析(目標→記録→分析を1サイクル)
現場実装のコツ ― 弱みは「仕組み」で最小化する
標準化テンプレ/チェックリストの活用
苦手な記録はテンプレート+音声入力を導入、ミスはチェックリストで予防。
人の苦手は、道具とルールで小さくできると割り切ると回りが速くなります。
委任と伴走のバランス
自分の弱み領域は、得意な職員に委任。
いきなり丸投げせず、最初の1~2回は伴走して品質基準を共有します。
部下の強みを引き出すリーダー面談(1on1ひな形)
5つの質問
- 最近「楽しかった仕事」は?なぜ?
- あなたの貢献で助かった人は誰?具体的に?
- もう一度やってと言われたら喜んでやる業務は?
- やりたくない業務は?最小化する方法は?
- 次の4週間で強みを活かして達成したいことは?
40代以降のキャリア戦略 ― 強み×成果を「言語化」して蓄積
履歴書・面接で刺さる「強みの語り方」
「強み→施策→成果(数値)」の順で語ると、即戦力として伝わります。
例)「家族調整が強み→一次連絡の24h以内対応を徹底→クレーム半減・CS向上」
転職を考えるあなたへ
「今の職場では自分の強みが活かせない」
「評価が伸び悩む」。
そんな悩みが続くなら、強みを評価する文化のある職場へ環境を変えるのも選択肢です。
介護職専門の転職エージェントなら、
- あなたの得意分野に合うポジション(家族対応・教育・標準化・改善など)
- 研修/OJT体制が整い、強みを伸ばせる法人
- キャリアアップ機会(役職登用・資格支援)が豊富な職場
など、求人票だけでは見えない“職場の中身”まで教えてくれます。
まとめ
自分の強みを明確にし、重要業務へ集中配分する。
弱みは仕組みと分担で最小化する。
この再設計ができたとき、現場の成果・スタッフの定着・あなたの評価が一気に連動して伸びていきます。
次回予告
次回(第11話)は「不確実な時代の人材育成」。変化に強い人材を育て、チームの学習速度を高める実践法をお届けします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 強みがよく分かりません。どこから始めるべき?
A. 過去3つの成功体験を書き出し、共通する行動特性を抽出。次に周囲へ短問アンケを行い、4週間のフィードバック分析で検証してください。
Q2. 強みに偏ると、弱い業務が穴になりませんか?
A. 穴はテンプレ化・チェックリスト・委任で最小化します。品質基準を言語化して共有すれば、穴はチームで埋まります。
Q3. 40代以降でも強みを武器に転職できますか?
A. むしろ管理職経験×強みの実績は高評価。数値化した成果(CS向上、事故減、業務短縮など)を添えて語ると効果的です。
参考・引用(本文末に記載する表記)
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ピーター・F・ドラッカー『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社
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ピーター・F・ドラッカー『経営者の条件』ダイヤモンド社
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