前回、(第8話:強みを最大化するリーダーシップ)では、職員の得意分野を活かす配置や役割分担の方法をご紹介しました。
強みを活かすことで現場の生産性が高まることをお伝えしましたが、それだけでは十分ではありません。
介護現場は常に多忙であり、やるべきことが山積みだからです。
「限られた時間と人員の中で、何を優先すべきか」──これを見極める力こそがリーダーに求められる次のスキルです。
結論 ― 優先順位設定は成果を生む最大のレバー
ドラッカーは『経営者の条件』(ダイヤモンド社)で、
「成果を上げる者は、重要なことから始める」
と述べています。
つまり優先順位の設定は単なるタスク整理ではなく、生産性とサービス品質を同時に高める経営的視点です。
40代以降の介護リーダーがキャリアアップを考える上でも、このスキルは欠かせません。
すべてを同時にやろうとすると質が下がる
介護現場は日々、予期せぬ出来事にあふれています。
利用者の体調変化、突発的な家族対応、書類業務…。
これらを「全部きちんとやろう」と抱え込むと、結果的に重要な業務の質が落ちてしまいます。
優先順位をつけることは「やらないことを決める勇気」でもあるのです。
私の体験談
デイサービスで主任をしていた頃、毎日イベント準備に追われていました。
利用者の楽しみになる一方で、スタッフが疲弊し、ケアの質が落ちていました。
思い切ってイベントを月2回に縮小し、その分をリハビリ強化に充てたところ、利用者のADLが改善し、満足度も向上。
スタッフも「これなら本来の仕事に集中できる」と声を上げました。
優先度の誤りは現場の混乱を招く
多くのリーダーは「緊急度」だけで判断してしまいます。
しかし緊急だが重要でない業務に追われ、本当に重要な「研修」や「改善活動」が後回しになれば、長期的には離職やサービス低下につながります。
優先順位を誤ることは、現場の未来を犠牲にすることと同じです。
現場の実例
グループホームで日々の急変対応に追われ、安全対策会議が何度も延期されていました。
そこで月1回、必ず時間を確保して会議を実施したところ、事故件数は前年比で20%減少しました。
緊急対応と重要課題のバランスが成果を生み出した好例です。
ドラッカー流 優先順位設定の原則
ドラッカーは「成果の高い仕事から始めよ」と繰り返し説いています。介護現場に応用するには、以下の4つの手順が有効です。
- 目的との一致度を評価(利用者満足・安全性向上につながるか)
- 成果インパクトを数値化(事故減少率、クレーム件数の減少など)
- 投入リソースの妥当性(人員・時間・コストと成果の見合い)
- 定期的な見直し(週単位で優先順位を点検する)
成功事例 ― 優先順位で変わる現場の成果
事例1:午前中は利用者対応に集中
ある特養の主任は、午前中の人手が必要な時間帯には事務作業を一切入れず、利用者ケアに集中しました。
その結果、利用者からの満足度が向上し、家族からの信頼も高まりました。
事例2:業務棚卸しで低優先度業務を削減
デイサービスで業務棚卸しを行った結果、低優先度のイベント準備を大幅に削減。
空いた時間をリハビリ強化に回したところ、利用者のADL向上率が改善しました。
事例3:緊急対応と重要課題の両立
グループホームで、日々の緊急対応と並行しつつ、必ず月1回の安全会議を実施。結果として事故件数は20%減少しました。
「やらないこと」を決める勇気
優先順位設定はリーダーにとって最も重要なスキルのひとつです。
やらないことを決め、重要なことに集中する勇気が現場の成果とリーダーの評価を引き上げます。
明日からできる実践ステップ
- すべての業務を書き出す
- 重要度と緊急度で「4象限マトリクス」に分類する
- 高重要・低緊急業務の時間を必ず確保する
- 毎週の会議で優先順位を全員と共有する
転職を考えているあなたへ
もし今の職場で「本当にやるべき仕事に時間を割けない」と感じているなら、転職を検討するのも選択肢です。
介護職専門の転職エージェントなら、
- 働きやすいシフト体制
- 業務効率化が進んでいる施設
- キャリアアップの機会が豊富な職場
を紹介してもらえます。
次回予告
優先順位を見極める力は、成果とキャリアアップを同時に引き上げる武器です。
次回(第10話)は「自分の強みを知り活かす介護リーダー」をテーマに、自己分析による成果最大化の方法をご紹介します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 緊急度が高い業務ばかりで優先順位がつけられません。
A. 1日のうち「絶対に外せない時間帯」を決め、他業務を入れないルール化が有効です。
Q2. 優先順位をつけても部下が従ってくれません。
A. 共有の場で「なぜそれが重要か」を説明し、納得感を持たせることが必要です。
Q3. 40代以降で今から優先順位設定を学んでも遅くないですか?
A. 遅くはありません。むしろ管理職としての評価を高め、転職市場でも価値が上がるスキルです。
引用書籍
- ピーター・F・ドラッカー『経営者の条件』ダイヤモンド社
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