前回の第8話では、「失敗こそが脳を進化させる最高の学び」であることを、心理学と脳科学の観点からお伝えしました。
では、現場が失敗を恐れず挑戦できる文化になるには、何が必要なのでしょうか。
その一つの鍵が、“やらされ感”の解消です。
介護や福祉の職場において、「やらされている」と感じる作業が増えると、現場は徐々に沈滞していきます。
一方、「意味をもって動いている」という実感があるチームは、表情も言葉も活き活きとしている。
この違いを生むのが、★リーダーによる“目的の言語化”★です。
人は“意味”によって動く
「やらされ感」を払拭する最大の方法は、仕事の“目的”を日常的に言葉で伝えることです。
「なぜこの仕事をするのか?」という問いに対し、納得感のある“答え”を与えられるリーダーは、部下のやる気スイッチを自然に押すことができます。
脳は“意味づけ”に反応して動く
この理論は、西田文郎氏の著書『NO.1理論』(現代書林)においても紹介されています。
「人間の脳は、“目的”が見えたときに最大限の力を発揮する。
意味づけが弱いと脳は動かない。」
脳には報酬系と呼ばれるドーパミン分泌のシステムがあり、意味があると感じた行動に対して積極的に動こうとする性質があります。
一方で、意味のない作業には報酬感覚が働かず、疲労や不満の蓄積につながるのです。
とくに「介護」という人の人生に深く関わる職業であるからこそ、一つひとつの仕事に「価値」があることを伝える姿勢が不可欠です。
目的の“日常的な言語化”が鍵
「目的の言語化」とは、特別なスピーチではありません。
日々の朝礼や声かけ、OJT、1on1など、あらゆる場面で「この仕事の意義」「この人にとっての価値」を伝えていく姿勢です。
それにより、職員の脳は「この仕事には意味がある」と理解し、自然と行動に前向きさが生まれます。
現場で起きた変化の事例集
ケース①:朝礼で1分の「意味共有」を導入
ある特別養護老人ホームでは、主任クラスの職員が「今日の目的」を1分で語る習慣を始めました。
例:「今日は○○さんの入浴日ですが、前回笑顔が多く見られたので、今回も心地よく過ごしていただくのが私たちの目標です」
これを聞いた若手職員は、「自分たちの仕事がご利用者の生活にどうつながっているか」が実感できるようになり、
作業の精度とやる気が大きく変化したといいます。
ケース②:新人教育で“WHYの質問”を取り入れた
あるデイサービスでは、OJT中に必ず「なぜ今この支援が必要か?」と新人に問いかけるスタイルに切り替えました。
たとえば、排泄介助の場面で「このタイミングの声かけにはどんな意味がある?」と問い、
新人が「尊厳を守るため」と答えたことを褒めることで、学びが定着しやすくなったとのこと。
このような指導を受けた新人は、技術だけでなくケアの本質的価値を理解して動けるようになります。
ケース③:言葉ひとつで“ただの作業”が“使命”に変わる
同じ“トイレ誘導”でも、「早く終わらせて次に行かないと」と言われるのと、
「○○さんが自分らしく過ごせるよう、丁寧にお願いしますね」と言われるのとでは、心の持ちようが違います。
言葉によって、作業は“誰のために・何のために”やっているのかが明確になる。
これこそが“やらされ感”からの脱却の第一歩です。
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【まとめ】言葉ひとつが現場の空気を変える
「やらされている」――そう感じる職場では、声も表情も沈みがちです。
しかし、「この仕事には意味がある」「自分の行動が誰かの役に立っている」と実感できる職場には、自然と笑顔が戻ります。
目的を言語化する力は、リーダーの“伝える力”そのもの。
それが現場に伝播することで、モチベーションは高まり、離職も減り、チームの一体感が生まれます。
次回予告:第10話「“あの人がいないと回らない”現場の落とし穴」
次回は、「“○○さんが居ないと回らない”現場の落とし穴の罠」について取り上げます。
特定の人に頼りすぎる現場では、安定性と成長の両方が阻害されます。
“自走型チーム”をつくるための具体的なアプローチをお届けします。
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引用書籍リスト
• 『NO.1理論』 西田文郎著(現代書林)
• 『ツキの大原則』 西田文郎著(サンマーク出版)
• 『脳を活かす勉強法』 茂木健一郎著(PHP研究所)※補足理論参照
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