前回の第9話「『やらされ感』を消すには“目的の言語化”を」では、
スタッフが自ら動くためには、「なぜそれをやるのか」という目的を明確に言葉にすることが重要だとお伝えしました。
今回はその延長線上として、**特定の人に業務が集中する“属人化”**の問題に踏み込みます。
介護現場でよく耳にする「○○さんがいないと仕事が回らない」という状態は、一見頼もしいように見えますが、実はチーム全体にとって大きなリスクです。
西田文郎氏の著書『No.1理論』(現代書林)では、**「人は自分が必要とされているとき、脳が最大限に活性化する」と解説されています。
しかし、これが特定の人物に偏りすぎると、他のスタッフは役割を果たしづらくなり、「依存型の現場」**が形成されてしまうのです。
この記事では、属人化から自走型チームへの転換術を、実際の介護施設の事例を交えて解説します。
「誰でも動ける」現場が最強
結論から言うと、属人化を脱して「誰でも安心して動ける現場」を作ることが、リーダーの最重要ミッションです。
特定の人に依存する状態は、
• その人の休職・退職時に大混乱
• 他スタッフの成長停滞
• 組織全体の持続可能性の低下
を招きます。
自走型チームとは、**「全員が目的を理解し、自分で判断して動ける状態」**のこと。
属人化を解消することで、現場の安定感とスタッフの自信が同時に高まります。
属人化がもたらす3つのリスク
1. 業務知識の偏在
属人化現場では、仕事の流れや細かな判断基準が暗黙知としてベテランだけに蓄積されます。
結果、他のスタッフは「聞かないと分からない」状態になり、判断力が育ちません。
2. チーム成長の停滞
人は「自分がやらなくても誰かがやる」と思うと、脳の活性化が弱まります(西田文郎氏『脳の使い方次第で人は変わる』三笠書房)。
依存状態では、新しいスキル習得や改善提案が生まれにくくなります。
3. 離職リスクの増大
特定の人物が抜けると業務負担が一気に偏り、疲弊したスタッフが連鎖的に離職するケースも少なくありません。
介護労働安定センターの調査(2023年)では、**離職理由の第2位に「人間関係・職場の雰囲気」**が入っており、属人化はその温床になり得ます。
科学的にも危険な属人化
西田氏の理論によれば、人の脳は「自分の役割がある」「自分の行動が評価される」ことで前頭前野が活性化し、意欲が持続します。
属人化現場では、この達成感や貢献実感を得られるのが特定の人物に限定されるため、**他スタッフの脳は「省エネモード」**に入りやすくなります。
つまり、属人化は単なる業務リスクにとどまらず、スタッフの脳の働きやモチベーションそのものを弱める構造なのです。
40代介護リーダーの現場改善ストーリー
事例1:業務の「見える化」で混乱ゼロへ
東京都内の特養に勤める40代女性リーダーAさん。
長年頼りにしていたベテランが急病で長期休暇に入り、現場は大混乱。
そこでAさんは、業務をExcelで可視化し、担当者をローテーション化。
さらに、**「誰がいなくても回る日」**を月1回設定し、シミュレーションを実施。
結果、半年後には「○○さんがいないと困る」という声が消え、スタッフの自信も向上しました。
事例2:言葉の使い方で意識改革
地方の老健で主任を務めるBさんは、
「〇〇さんがやったほうが早い」という雰囲気を断ち切るため、意識的に成功体験を言語化して称賛しました。
例えば、
「昨日の夜勤、山田さんの判断で利用者さんの転倒を防げたね」
といった具体的なフィードバック。
これにより、スタッフ同士の信頼が深まり、自主的に動く文化が根づきました。
事例3:外部研修+代理リーダー制度
介護付き有料老人ホームの40代男性Cさんは、属人化解消のために代理リーダー制度を導入。
月1回、主任不在の日をつくり、代理が判断する仕組みに。
さらに外部研修で判断基準を学び、全員が同じ基準で動けるようにしました。
結果、主任の有休取得率が**60%→100%**に改善。
スタッフの離職率も大幅に低下しました。
自走型チームへの道筋
属人化の解消は、単なる業務効率化ではなく、スタッフ全員の脳を活性化させる組織改革です。
• 業務の見える化
• 役割のローテーション
• 成功体験の言語化
• 代理制度の導入
これらを組み合わせれば、「誰でも動ける現場」が実現します。
もし、今の職場が「属人化」に依存していると感じたら、
一度外の職場のやり方を知ることも有効です。
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次回は、第11話:「「職員がいなくて回らない」発言の弊害」という話題でお届けします。
人が足りない時こそ、思考の転換が現場を救う。
「プラス脳」への言い換え術を提案します。
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引用書籍リスト
1. 西田文郎『No.1理論』現代書林
2. 西田文郎『脳の使い方次第で人は変わる』三笠書房
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